
サイコメトリー(Psychometry)とは、物体に触れることで、そこに刻まれた人の記憶や情報を読み取るとされる超能力の一種です。「心霊的な行為」として語られることも多く、科学と神秘の狭間に位置するこの現象は、古くから人々の想像力をとらえてきました。
超心理学の世界では、サイコメトリーは「通常の推測過程を経ずに、物品にまつわる過去や現在の出来事を知ること」と定義されています。いわゆる「過去の透視」として、広義の「透視(クレアボヤンス)」に含まれることもあります。さらにこの透視は、テレパシーや予知とともに、五感を超えた情報取得能力——「超感覚的知覚(ESP)」——の一部として研究の対象となってきました。ESPという言葉自体は、デューク大学のJ・B・ラインによって広く普及したもので、サイコメトリー、テレパシー、千里眼、予知といった能力を包括する概念として使われています。
サイコメトリーの歴史は、19世紀にまでさかのぼります。その「発見者」として広く知られているのは、アメリカの医学者ジョセフ・ローズ・ブキャナン(Joseph Rodes Buchanan, 1814-1899)です。医学を教える傍ら、心霊研究にも深く関与した彼が活動した時代は、科学とオカルトの境界線がまだおぼろげだった頃のこと——ちょうど写真術が発明され、電信が走り、人々が「見えない力」に強烈な関心を抱いていた時代でもありました。
ブキャナンは、チャールズ・インマンという人物が手紙に触れるだけで、その文章に込められた感情や、書き手の背景・特徴を正確に読み取ったとされる実験を記録しています。こうした初期の観察が、サイコメトリーという概念の礎となりました。
19世紀という時代の空気が、サイコメトリーの初期定義には色濃く反映されています。科学とオカルトの境界が曖昧だったその時代背景こそが、この概念が現代において「科学的に証明されていない超能力」として扱われる大きな理由の一つです。
もし最初から厳密な科学的手法が適用されていたならば、サイコメトリーに対する評価や研究の方向性はまったく異なっていたかもしれません。初期の定義が持つ曖昧さは、現在も続く「真偽をめぐる論争」を理解するための、不可欠な出発点となっています。そしてそれは同時に、サイコメトリーが現代の懐疑主義から「疑似科学」として扱われる根拠のひとつでもあります。
ブキャナンは、サイコメトリーのしくみについて独自の推論を展開しました。彼が着想したのは、当時まさに誕生したばかりの技術——写真術でした。「特殊な薬品に光を当てると、その光が焼きついて写真が出来るように、人間が放出する『神経オーラ』が物品に焼きついているのではないか」。そしてその焼きついた記録を読み取る能力こそがサイコメトリーだ、と彼は説明しています。
この理論は、後の心霊研究に少なくない影響を与えました。特に1961年にアメリカで提唱された「residual haunting(残留思念による幽霊現象)」という概念と深く結びついています。これは、特定の場所で、まるでビデオテープを繰り返し再生するように、ある人物にまつわる怪音や怪異な現象が何度も起きる心霊現象を指します。地縛霊や「呪いの人形」、持ち主を不幸に引き込む魔の宝石といった話も、ブキャナンの「物質の記憶」という概念で整理できると示唆されています。
サイコメトリーが物理学的にどのようなしくみで起こりうるのか——この問いに対して、現代科学はまだ明確な答えを持っていません。バラ十字国際大学の研究によれば、サイコメトリーは数あるサイキック現象の中でも比較的多くの人が体験しやすいとされており、人間にはこのような情報を感じ取る能力が「おそらく誰にもある」と示唆されています。
一方で、懐疑的な立場からは、まったく異なる説明が提示されています。幽霊現象の正体は、事故現場の血の匂いや死臭、わずかに変色した地面、誰かの声のかすかな残響、手入れされていない場所の特有の空気感——そういった「その場所やモノに何かが起きた結果として残る、微細な情報」なのではないかというのです。人間の脳がそれらを無意識に感知し、「逆コンパイル」して幻覚として認識することで、幽霊や残留思念として知覚されるのかもしれない、と。この考え方は超能力の存在を前提とせず、むしろ人間の脳が持つ驚異的な潜在的情報処理能力を浮かび上がらせるものです。
ブキャナンが提唱した「神経オーラ」説は、写真術に触発された時代の産物であり、現代物理学の言葉で直接説明することは困難です。「残留思念」という概念もまた、心霊現象の説明には使われるものの、科学的な実証には至っていません。バラ十字国際大学が「体験しやすい現象だ」と強調しつつも、その物理的なメカニズムは不明だと認めていること自体が、この能力の科学的解明が途上にあることを正直に示しています。
超常現象に見える事象が、実際には脳の精巧な情報処理の産物である可能性——その懐疑論は超能力の存在を否定しながらも、人間の知覚の複雑さと奥深さを静かに示唆しています。サイコメトリーのメカニズムが解明されていないことは、この能力を科学の俎上に乗せる上での最大の障壁であり、その真偽を判断する際に常に問われる、根本的な問いであり続けています。
サイコメトリーは、犯罪捜査の場でもその力を発揮すると主張されることがあります。並木伸一郎氏の著書『超知覚サイコメトラー』によれば、サイコメトリーを持つ人々——「サイコメトラー」——が世界各国の警察や米国FBIの捜査に実際に活用され、「驚くべき実績をあげている」とされています。特定の人物の所有物や写真に触れることで、そこから情報を読み取り、捜査の糸口とする試みが行われているというのです。
サイコメトリーが発揮されるとされる舞台は、犯罪捜査だけにとどまりません。考古学の分野においても、遺物に秘められた残留思念を知覚する能力が「大いに活用されている」と主張されています。
よく語られる事例として、ポーランドの透視者ステファン・オソヴィエツキーのケースがあります。1935年、民俗学者スタニスラフ・ポニアトスキーは、世界各地の遺跡から集めた火打石や石器を使い、オソヴィエツキーの能力を厳密な条件のもとで試しました。結果は驚くべきものでした——オソヴィエツキーは石器の年代、発見地、そしてそれを生み出した文化を次々と描写し、当初ポニアトスキーの持っていた情報と食い違いがあった箇所は、後になってポニアトスキーの側に誤りがあったと判明したとも言われています。
たとえば、紀元前15,000年から1万年前のフランスで栄えたマグダレニアン人の石器を手にしたとき、オソヴィエツキーは「マグダレニアン人の女性はとても手の込んだ髪型をしている」と語りました。当時の通説とは異なる見解でしたが、後にマグダレニアン人の女性の彫像が発見され、その描写の正確さが実証されたとされています。また彼は、石器時代の人々が油のランプを使っていたとも述べており、後にフランスのブルゴーニュ地域圏で彼が描写した通りの形と大きさのランプが発掘されたという記録も残っています。
もうひとつ注目される事例が、ジョージ・マクマレンによるサイコメトリーです。カナダ考古学会の副会長だったノーマン・エマーソンは、当初こうした研究に懐疑的でした。しかしトラック運転手であるマクマレンの能力を調査した結果、見方を一転させます。マクマレンは何もない大地の上を歩き、そこがイロクォイ族の共同生活の場だったと発言。6ヶ月後の発掘調査でその主張が裏付けられたとされ、エマーソンは1973年の学会で「考古学調査において超能力者の使用を広げていくことは最優先事項」と述べたと伝えられています。
これらの事例は、サイコメトリーが歴史の解明に貢献しうるという可能性を示すものとして語られます。しかし、特に犯罪捜査への活用については、具体的な事件名や科学的に検証された公式記録が見当たらないのが実情です。また、考古学的事例についても、その検証方法や再現性に対して疑問が呈される余地は十分にあります。
サイコメトリーの有用性に関する主張は、広範な科学的承認を得ているわけではなく、科学的根拠の欠如が誤解や詐欺のリスクを伴う可能性を指摘する声もあります。この点は、次章で詳しく見ていきます。
超心理学は、通常の知覚や物理法則では説明できないとされる現象——PSI現象——を研究対象とする学問分野です。サイコメトリーを含む「透視」のほか、テレパシー(他者の思考を直接知る能力)、予知(未来を知る能力)、念力(物体に物理的影響を与える能力)なども含まれます。
この分野を代表する機関のひとつが、1957年にジョセフ・B・ラインの主導でノースカロライナ州ダーラムに設立された超心理学協会(Parapsychological Association)です。同協会は1969年に米国科学振興協会(AAAS)の正式加盟団体となりました——これは主流科学の組織に認められたという意味で象徴的な出来事でしたが、一方で物理学者ジョン・アーチボルド・ホイーラーが1979年にAAASへの加盟取り消しを求めるなど、批判も根強くあります。英国では、1882年に設立された心霊研究協会(Society for Psychical Research)が世界初の組織的な心霊研究団体として、ウィリアム・クルックス、オリバー・ロッジ、ウィリアム・ジェームズといった著名な科学者・哲学者を会員に迎え、長年にわたって研究を続けています。
研究手法には、特定の条件下でPSI現象を誘発・測定しようとする「実験室研究」と、自然発生的な事例を調査する「フィールドワーク」があります。ESPの存在を検証するためには「強制選択課題」や「自由反応課題」などの手法が用いられており、日本でも日本超心理学会が学術誌「超心理学研究」を発行し、探求を続けています。
しかし超心理学の内部からも、現在観察されているサイ効果は「微弱で不安定」だという認識が示されています。特殊な能力を持つとされる人物の研究や、能力開発訓練も試みられていますが、「まだ成果が得られていない」のが現状です。心理学者を対象とした調査では、「ESPは確立した事実だ」または「ESPは存在する可能性がありそうだ」と回答した者は34%にとどまり、科学界全体のコンセンサスとはほど遠い数値です。
ESPの科学的研究といえば、1930年代にデューク大学でJ・B・ラインが行ったゼナーカードを用いた一連の実験が知られています。五つの記号(円、四角、波線、十字、星)が描かれたカードを使い、テレパシーや透視の存在を検証しようとした試みは、当時大きな話題を呼びました。しかしその後、プリンストン大学のW・S・コックスをはじめ複数の研究グループが追試を行い、ラインの結果を再現できなかったと報告しています。後の調査では、被験者がカードの裏から記号を透かし見たり、実験者の微細な反応を手がかりにしたりする「感覚的な漏れ」が結果を左右していた可能性が指摘され、方法論的な欠陥として批判を受けることになりました。
サイコメトリーをはじめとする超能力の主張に対しては、科学的懐疑主義からの厳格な検証が行われています。懐疑主義の基本姿勢は、「信じる前に確固たる証拠を見なければならない」という暫定的なアプローチ。UFOや超能力を支持する経験的証拠がない限り、それらを信じることは「誤って導かれた」ものと見なされます。
著名なデバンカー(「超能力の嘘を暴く人」)として知られるジェームズ・ランディは、超能力の主張がいかに金儲けに利用されるか、そして偽医療が深刻な健康被害や死を招くリスクについても警鐘を鳴らしてきました。こうした活動は、超能力が社会に与える負の側面——詐欺や誤情報の拡散——に対する注意喚起の役割を果たしています。
科学的な検証において最も重要な要素のひとつは、現象の再現性です。超心理学が「微弱で不安定」と自ら認めている事実は、サイコメトリーを含むPSI現象の再現性に大きな課題があることを示しています。科学的事実は常に暫定的であり、新たな証拠によって覆されうるという原則は、超能力の主張に対しても同様に適用されます。確固たる証拠と再現可能な実験結果が伴わない限り、サイコメトリーが科学的に認められた能力となることは難しいのが現状です。
サイコメトリーの真偽をめぐる議論は、科学的検証の限界と、異なる知識のパラダイム間の対立をくっきりと浮かび上がらせます。超心理学はPSI現象の存在を主張して実験を重ねていますが、その効果が「微弱で不安定」と認めている以上、再現性・信頼性という科学の根幹において大きな課題を抱えていることになります。
科学的懐疑主義は、超能力の存在そのものを一刀両断に否定するのではなく、その主張を裏付ける「確固たる経験的証拠」を粘り強く要求します。この要求が、超心理学が直面する最も根本的な課題です。ランディのようなデバンカーの活動は、超能力が詐欺や誤情報に利用されるリスクを具体的に示しており、その社会的影響は無視できません。結論として、サイコメトリーの「真偽」は現在の科学的枠組みにおいて未証明の状態にあり、その議論は証拠の質・量・検証方法をめぐるより深いパラダイムの対立と切り離して考えることはできません。
サイコメトリーと遠隔透視(リモートビューイング)は、いずれも通常の五感を超えた情報取得能力——「超感覚的知覚(ESP)」——の一種として分類されます。
サイコメトリーは、物体に触れることでそこに残された記憶や情報を読み取る能力・現象を指します。超心理学では「過去の透視」として「透視」の一種に含まれています。
遠隔透視(リモートビューイング)は、直前の視野に入らないものや視覚で確認できないものを、直感やイメージで正確に判別する能力と定義されます。「千里眼」とも呼ばれ、特に遠く離れた場所の映像を見る場合に「リモートビューイング」という言葉が使われます。両者に共通するのは、物理的な感覚器や既知の論理的推論を介さずに情報を得るという点です。
サイコメトリーと遠隔透視の最も大きな違いは、情報取得の「媒介」にあります。
サイコメトリーでは、情報源となる物体への物理的な接触が必須です。取得できる情報は、その物体にまつわる過去の出来事や所有者に関するものに限られる傾向があります。これはブキャナンが提唱した「神経オーラが物品に焼きつく」という概念とも整合しています。
これに対し、遠隔透視(リモートビューイング)は物理的な接触を必要とせず、遠隔地の情報や視覚では確認できない情報を取得します。空間的な距離に制約されないとされており、意識が遠隔地へと「移動」するようなメカニズムが仮定されることもあります。
この違いは、超感覚的知覚における情報取得の「媒介の有無(物体か否か)」と「範囲(近接か遠隔か)」によって、能力が細分化されていることを示唆しています。サイコメトリーは物質に記録された情報を読み取る能力、遠隔透視は空間に存在する情報を直接知覚する能力——それぞれ異なる理論的基盤を持っています。
| 項目 | サイコメトリー | 遠隔透視(リモートビューイング) |
|---|---|---|
| 定義 | 物体に触れることで、そこに残された人の記憶や情報を読み取る能力・現象 | 直前の視野に入らないものや視覚で確認できないものを、直感やイメージで正確に判別する能力 |
| 情報取得方法 | 物理的な物体への接触を介して、その物体にまつわる過去の出来事や所有者の情報を知覚 | 物理的な接触なしに、遠く離れた場所の映像や情報を知覚 |
| 対象 | 特定の物体(時計、写真、石器など)に「焼き付いた」とされる記憶や思念 | 遠隔地の場所、人、出来事など、空間的に離れた対象 |
| 共通点 | どちらも通常の五感や論理的推測を超えた「超感覚的知覚(ESP)」の一種。 | |
| 相違点 | 物理的接触が必須。情報源は物体に限定される。 | 物理的接触は不要。情報源は空間的に広範囲に及ぶ。 |
サイコメトリーが犯罪捜査に活かされ、実績を上げているという主張は、一部の書籍で繰り返し語られています。並木伸一郎氏の著書『超知覚サイコメトラー』では、サイコメトラーたちが「世界各国の警察や米国のFBIなどの犯罪捜査に活用され、驚くべき実績をあげている」と述べられています。しかし、この主張を裏付ける具体的な公式捜査記録や、科学的に検証された協力事例は、現在のところ見当たりません。こうした実績が一般に認識されているほど普遍的・公的に認められたものではない可能性を、これは示唆しています。
「サイコメトラーEIJI」は少年漫画誌やTVドラマとして広く親しまれており、主人公・明日真映児が卓越したサイコメトリー能力で凶悪な殺人事件を次々と解決していく姿が描かれています。この作品が「サイコメトラーは架空の存在ではなかった」という形で紹介されることもありますが、もちろんこれはあくまで物語の設定です。
他にも、『このミステリーがすごい!』大賞の作品では、催眠状態で「空間に残された思念」を読み取る能力を持つ生徒が誘拐事件の捜査に協力するという設定が登場します。韓国ドラマ「彼はサイコメトラー」では、残留思念を読み取る高校生が警察の捜査に非公式に関わりながら事件を解決していく物語が展開されます。
こうしたフィクションは、サイコメトリーが犯罪捜査において決定的な力を発揮するというイメージを社会に広く植えつけています。しかしこれらはあくまでエンターテイメントとしての脚色であり、現実の捜査でサイコメトリーが法的な証拠として採用されたり、科学的に有効な捜査手法として公式に認められたりした事例は、確認されていません。
「サイコメトラー」という言葉が漫画やドラマを通じて社会に広く浸透していることは、フィクションがこの概念の普及に果たした役割の大きさを物語っています。サイコメトリーが事件解決の決め手として描かれる作品は多く、それがエンターテイメントとしての魅力を高めることは間違いありません。
しかし「世界各国の警察やFBIが活用し、実績をあげている」という主張が存在する一方で、「実際の事件」として提示されている情報の多くがフィクション作品のあらすじに終始しているという矛盾があります。現実世界でのサイコメトリー捜査活用は、主張されるほど確実なものではなく、一般の認識が科学的根拠よりもフィクションの影響を強く受けている可能性を、この現状は示しています。
フィクションと現実の間のこの大きな隔たりは、サイコメトリーへの社会的な期待と、その科学的・法的な位置づけが確立されていない現実との間に、解消されにくいギャップを生み出しています。そしてそのギャップは時として、誤解や詐欺行為の温床になりうるリスクをはらんでいます。
| 分野 | 具体的な活用内容(主張) | 主要な事例(実在/フィクションの区別を明記) | 評価/結果 |
|---|---|---|---|
| 犯罪捜査 | 特定の人物の所有物や写真に触れて、所有者に関する情報を読み取ることで、事件解決に貢献 | 「サイコメトラーEIJI」(漫画・ドラマ):フィクション | 警察・FBIによる活用が主張されるが、具体的な公式記録や科学的検証事例は確認できない。 |
| 催眠状態で「空間に残された思念」を読み取り、誘拐事件の捜査に協力 | 小説『このミステリーがすごい!』大賞作品:フィクション | フィクション作品では事件解決に貢献するが、現実の捜査での採用は不明。 | |
| 残留思念を読み取る能力で死体発見や犯人特定に協力 | 韓国ドラマ「彼はサイコメトラー」:フィクション | フィクション作品では捜査に貢献するが、現実の捜査での採用は不明。 | |
| 考古学 | 物体に秘められた残留思念を知覚し、年代、場所、文化、生活様式などを解明 | ステファン・オソヴィエツキーによる石器の描写と発掘:主張される実例 | 石器の年代、文化、油ランプ、居住形態、埋葬習慣、狩猟対象動物の描写が後に考古学的に立証されたと主張される。 |
| 何もない大地から過去の居住地を特定 | ジョージ・マクマレンによるイロクォイ族居住地の特定:主張される実例 | 6ヶ月後の発掘により、主張が事実と判明したと主張される。カナダ考古学会副会長が能力活用を提唱。 |
サイコメトリーがもし実在し、その能力が広く利用されるとしたら——そう想像するだけで、社会にはさまざまな倫理的課題が浮かび上がってきます。個人の権利、情報の管理、そして社会の信頼性に深く関わる問題です。
サイコメトリーは、物体に触れることでその人の記憶や情報を読み取る能力とされます。もしこれが実際に機能するとすれば、個人のプライバシーへの深刻な侵害が懸念されます。現代のプライバシー権は一般に「一人にしておいてもらう自由(侵入からの自由)」「自己情報のコントロール」「監視からの自由」という三つの要素から成ると言われています。サイコメトリーは、物体への接触を通じて、個人の過去の行動・感情・思考といった極めて個人的な情報を、本人の同意なく取得しうるため、こうしたプライバシー権の根幹を揺るがすことになります。
特に、犯罪捜査やビジネスの場でサイコメトリーが活用される場合、個人情報保護の原則はとりわけ重要です。個人情報保護法では、利用目的の特定、適正な取得、本人の同意なしの第三者提供の制限などが定められています。サイコメトリーによる情報取得は、こうした法的・倫理的枠組みの外側で行われる可能性が高く、情報の不正取得や本人への説明責任の欠如といった問題を引き起こしかねません。これはAI技術によるデータ収集のリスクとも共鳴する問題であり、透明性・公平性・説明責任の欠如につながる可能性があります。
超能力の主張は、誤情報や詐欺の温床になるリスクを常にはらんでいます。経験的証拠に裏打ちされていない主張が金銭目的に利用されるケースは、デバンカーたちが繰り返し警告してきたことでもあります。さらに、仮にサイコメトリーが実在し、その情報が捜査などに活用された場合、PSI効果が「微弱で不安定」である以上、誤情報が犯罪捜査の決定的な証拠として扱われ、冤罪につながる危険性も否定できません。情報の信頼性が担保されないまま社会的な判断に用いられることは、深刻な混乱や不利益を招きかねない問題です。
メディアは、サイコメトリーのような超能力に関する情報を社会に伝える重要な役割を担っています。しかしセンセーショナリズムに走り、科学的根拠の乏しい主張をあたかも事実のように伝えることは、視聴者・読者を誤解させるリスクがあります。非科学的な信念を助長し、疑似科学的な活動への誘導につながる可能性も指摘されています。
超能力の報道においては、事実とフィクションの区別を明確にし、科学的検証の現状や懐疑的な見解もバランス良く伝えることがメディアの倫理的責任として求められます。既存の偏見に基づく報道や、個人の権利を侵害するような報道も、引き続き改善が求められる課題です。
サイコメトリーが提起する倫理的課題は、「情報の信頼性」と「個人の権利保護」という二つの軸から考える必要があります。そのメカニズムが未解明であり、信頼性・再現性が科学的に確立されていない以上、その情報を社会的な意思決定に用いることは極めて慎重であるべきです。誤った情報が社会に広まることで、個人の行動や人生が思わぬ形で影響を受けるリスクは現実のものとして存在します。
また、プライバシーや自己決定権といった基本的人権が、未解明の現象によって侵害される可能性は、法的な観点からも重大です。仮にサイコメトリーが実在するとしても、その利用には厳格な法的・倫理的規制が欠かせません。情報取得への同意、利用目的の明確化、誤情報による被害への責任の所在——これらはサイコメトリーという特殊な文脈を超え、情報化社会やAI技術がもたらす倫理的課題とも共鳴する、普遍的な問いとして捉えることができます。
本レポートでは、サイコメトリーという超能力の概念について、その本質・有用性・真偽・遠隔透視との比較・実際にあったとされる捜査事件・倫理的課題という多角的な視点から考察を行いました。
サイコメトリーは19世紀にジョセフ・ローズ・ブキャナンが提唱した歴史ある概念であり、物体への接触を通じてその記憶や情報を読み取る能力と定義されています。「神経オーラ」や「残留思念」といった理論が提唱されてきましたが、現代科学においてはいまだ未解明であり、物理学的な説明は確立されていません。懐疑的な立場からは、超常現象に見える事象が人間の脳の精巧な情報処理の産物である可能性も指摘されています。
有用性については、犯罪捜査や考古学分野での活用が主張されています。考古学においては、オソヴィエツキーやマクマレンによる具体的な事例が挙げられ、その能力が発掘や歴史解釈に貢献したとされます。しかし犯罪捜査における「驚くべき実績」については、具体的な公式記録や科学的に検証された事例は確認されておらず、多くの言及がフィクション作品の描写に終始しているのが実情です。
真偽については、超心理学がPSI現象の研究を続けている一方で、その効果が「微弱で不安定」であることを自ら認め、能力開発の成果も十分には得られていません。超心理学協会は1969年にAAASの加盟団体として認められましたが、科学界全体のコンセンサスとはいまだ大きな隔たりがあります。科学的懐疑主義は確固たる証拠と再現性を求め、詐欺や誤情報への利用リスクを指摘しています。現在の科学的枠組みにおいて、サイコメトリーの存在は未証明です。
遠隔透視との比較では、両者ともESPの一種という共通点を持ちながら、物体への物理的接触が必須かどうかという点で明確に異なります。これは情報取得の「媒介」と「範囲」における、それぞれの能力の独自性を示しています。
倫理的課題としては、個人のプライバシー侵害の可能性、誤情報や詐欺・悪用のリスクが挙げられます。本人の同意なき情報取得は現代の個人情報保護原則と衝突し、信頼性が担保されない情報の社会的利用は深刻な混乱を招きかねません。メディアもまた、科学的根拠とフィクションの区別を明確にし、倫理的な責任を果たすことが求められます。
現状、サイコメトリーは科学的に未解明な現象です。その存在・メカニズム・信頼性については、依然として議論の余地があります。今後の研究には、より厳密な科学的手法と再現性のある実験が不可欠でしょう。そして私たちの側も、超能力への過度な期待や誤解を避け、批判的な思考に基づいた情報リテラシーを磨いていくことが大切です。サイコメトリーは、科学と未解明な現象の狭間で、人間の知覚と社会の認識の限界を問いかける、いつまでも興味深いテーマであり続けるでしょう。
Parapsychological Association:http://www.parapsych.org/
Parapsychological Association - Wikipedia:https://en.wikipedia.org/wiki/Parapsychological_Association
Rhine Research Center:https://www.rhineonline.org/
Home | spr.ac.uk:https://www.spr.ac.uk/
Society for Psychical Research - Wikipedia:https://en.wikipedia.org/wiki/Society_for_Psychical_Research
Supporting the scientific study of psychic phenomena | Parapsychology Foundation, Inc.:https://parapsychology.org/
American Society for Psychical Research - Wikipedia:https://en.wikipedia.org/wiki/American_Society_for_Psychical_Research
Division of Perceptual Studies - University of Virginia School of Medicine:https://med.virginia.edu/perceptual-studies/
ESP Research and Cognitive Neuroscience: Possibly Incompatible...:https://med.virginia.edu/perceptual-studies/wp-content/uploads/sites/360/2024/03/Acunzo2023_ESP-Research-and-Cognitive-Neuroscience_Possibly-Incompatible-But-Methodologically-Complementary.pdf
Parapsychology research at SRI - Wikipedia:https://en.wikipedia.org/wiki/Parapsychology_research_at_SRI
Society for Psychical Research | Cambridge University Library:https://www.lib.cam.ac.uk/collections/departments/archives-modern-and-medieval-manuscripts-and-university-archives-0
Parapsychology Research Centres - Worldwide | spr.ac.uk:https://www.spr.ac.uk/link-categories/parapsychology-research-centres-worldwide
超心理学研究 - J-Stage:https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jsppj/_pubinfo/-char/ja
IARP 国際宗教・超心理学会:http://www.iarp.or.jp/i/
IARP 国際宗教・超心理学会 - バックナンバー:http://www.iarp.or.jp/gakaisi01.html
Extrasensory perception - Wikipedia:https://en.wikipedia.org/wiki/Extrasensory_perception
ESP: What can science say? - Understanding Science.:https://undsci.berkeley.edu/esp-what-can-science-say/
How do prior beliefs affect the interpretation of scientific results?:https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10731315/