真霊論-念力(サイコキネシス)

念力(サイコキネシス)

「念力」という言葉を聞くと、多くの人はスプーンを曲げる超能力者の姿を思い浮かべるかもしれない。だが実はこの言葉、もともとは仏教に由来する由緒ある語だ。

仏教では、悟りへと至る道を支える五つの力——「五力」——のひとつに「念力」が数えられており、「物事をしっかりと心に留め、忘れない力」を意味する。念仏とは阿弥陀仏を常に心に思い続けることであり、その根底にあるのもこの念力である。大谷大学の研究によれば、人間の念力は「私の」という自我意識から離れられないため邪気が混じりやすいが、仏の念力は清浄で無欲であるとされている。時代を経るにつれ、この言葉はいつしか「意念によって物体を動かす超自然的な力」という意味へと変容していった。

現代の超心理学では、念力を英語で「Psychokinesis(サイコキネシス)」と呼び、「PK」と略すことも多い。「念ずる力が物体や現象に何らかの影響を与える」という概念として、世界中の研究者たちが長年にわたって追い続けてきたテーマでもある。

「念力による現象」が起こるとき、その発生源の多くは意図を持つ生きた人間とされる。ただし、すべてがそうとは限らない。たとえばポルターガイスト現象——物が突然動いたり、音が鳴ったりするあの怪奇現象——は、生霊や霊的エネルギーが発する「念」が引き金になると考えられており、超心理学では「反復性偶発性念力(RSPK)」という学術的な名称で呼ばれている。

また、物体への作用という観点から物理・科学的に念力を捉えると、「ある種の電磁波」として解釈する見方もある。電磁波を放出する電気機器類が念力の発生源に関わる可能性も、完全には否定できない。

超心理学における数々の念力実験

超心理学の研究機関や大学では、これまで繰り返し念力の実験が行われてきた。「二つのサイコロを振り、念じた目を出させる」「乱数発生器に念を送り、数値のパターンを操作する」といった実験モデルが代表的だ。

こうした実験を積み重ねてきた超心理学者たちの共通見解は、「人間の意識・念は、物体に対してわずかながらも作用を及ぼす」というものだ。ただし、これはあくまで超心理学という分野の中での知見であり、科学全体の結論として認められているわけではない。その境界線の曖昧さが、念力というテーマを今なお議論の渦に置き続けている。

日本における念力研究の歴史——千里眼事件と福来友吉

念力や超能力の研究が日本で社会的な注目を浴びた出来事として、明治43(1910)年前後の「千里眼事件」を避けて通ることはできない。

東京帝国大学の心理学者・福来友吉は、御船千鶴子や長尾郁子といった女性能力者たちの透視・念写能力を真剣に実験・研究した人物だ。封印された箱の中身を透視する実験や、写真乾板に念じた像を焼き付ける「念写」の実験を重ね、「透視は事実である。念写もまた事実である」と宣言した。「念写」という概念そのものを命名したのも福来である。

しかし、懐疑的な学者や新聞による激しいバッシングの中で、能力者たちは次々と悲劇的な結末を迎える。御船千鶴子は1911年1月に謎の服毒自殺を遂げ、長尾郁子も翌2月に病死した。福来自身も大学から事実上追放され、後に高野山大学教授として密教的な視点から超能力研究を続けることとなった。この事件を機に、アカデミズムの世界では超能力研究がタブー視されるようになったとも言われている。

念力という現象が、科学と信仰、理性と神秘の狭間でいかに翻弄されてきたか——その歴史の重さを、千里眼事件は今に伝えている。

念の物体への作用——直接作用と間接作用

念力が物質に働きかける方法には、大きく二つのパターンがあることが知られている。

ひとつは「直接作用」だ。これは念力によって物質の形を変えたり、破損させたりする力で、対象に触れる場合もあれば、まったく触れずに起こる場合もある。スプーン曲げや方位磁石を念で動かすといった現象が、その典型例として挙げられる。こうした直接作用を持つ人物は、多くの場合「超能力者」と呼ばれ、その力は天性——生まれながらに備わったもの——であることが多い。ポルターガイスト現象もまた、この念の直接作用によるものと考えられている。

もうひとつは「間接作用」である。念写がその好例だ。たとえば2枚のポラロイドフィルムを用意し、一方にだけ念を送る。念写能力を持つ人がこれを行うと、念を送ったフィルムには何らかの像が写り込む。外見上はどちらも同じ未使用フィルムだが、その内部——物の性質そのもの——が変化している。これが「念の間接作用」である。

さらに、人にネガティブな念を送る「呪い」も、念力の間接作用の応用と言える。効果が現れると、相手に病気が生じるなどの影響をもたらすとされる。逆に、ポジティブな念を送る行為は「祈り」と呼ばれ、それが効果を示したとき、相手の病が癒えることもあるという。念は、使われ方によって光にも影にもなりうる——そんな両刃の剣としての側面を持っているのだ。

念力が生まれるメカニズム——二つの仮説

人間の想念や意識力が、なぜ物体に直接・間接的な影響を与えることができるのか。その科学的なメカニズムは、いまだ解明されていない。しかし、多くの超能力現象が繰り返し報告されてきた事実は、もはや無視できるものではない。ここでは念力の発生を説明しようとする、二つの代表的な仮説を紹介しておこう。

●脳=コイル説

見えない力の代表格は電磁波だ。そこで人間の念力を「ある種の電磁波」として捉えるアプローチがある。電磁波の発生源として着目されるのが、コイル状の構造を持つ脳だ。人が強く何かを念じるとき、脳内の血流が速まる。電流がコイルを通過すると電磁場が生じるように、血流がコイル状の脳を駆け巡ることで「念波」とでも呼ぶべきエネルギーが発生する——という推測だ。物理的に説明しようとすると、どうしてもこうした電磁波的なモデルに行き着く。

●霊的存在のサポート説

一方、念力によって物質を消滅させたり、空間から物質を出現させたりするような、人間の生体メカニズムでは到底説明のつかない現象も報告されている。こうした極限的な念力の背景には、何らかの霊的存在の力が働いているのではないか、という考え方がある。たとえばヒンドゥー教の能力者たちは、物質をコントロールする際にハヌマン神へのマントラを唱える。ハヌマン神は時空を司る神であり、その神力を借りることで物質の操作が可能になると信じられているからだ。超能力者や霊能力者が何らかの霊的存在の守護を得ることで、通常では考えられない念力を発揮できるようになる——この仮説は、世界各地の霊的伝統に共通する考え方とも重なる。

参考ホームページ・文献等

大谷大学 - 念力|生活の中の仏教用語:https://www.otani.ac.jp/yomu_page/b_youg...

大阪公立大学 NDC Navi - 超心理学.心霊研究:https://ndcnavi.i.omu.ac.jp/ndcnavi9/?cl...

Wikipedia - 超心理学:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B6%85%E5...

Wikipedia - 念力:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BF%B5%E5...

J-STAGE - 第28回生命情報科学シンポジウム趣旨:https://www.jstage.jst.go.jp/article/islis/27...

J-STAGE - 国際生命情報科学会誌:https://www.jstage.jst.go.jp/browse/islis/-ch...

明治大学 - 日本超心理学会月例会:https://www.isc.meiji.ac.jp/~metapsi/jspp/...

明治大学 - メタ超心理学研究室:https://www.isc.meiji.ac.jp/~metapsi/index...

J-STAGE - 問題解決における個人差の超心理学的解釈:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsppj/3/...

コトバンク - 超心理学:https://kotobank.jp/word/%E8%B6%85%E5%BF%83%E7...

コトバンク - サイコキネシス:https://kotobank.jp/word/%E3%81%95%E3%81%84%E3...

コトバンク - 念力:https://kotobank.jp/word/%E5%BF%B5%E5%8A%9B-11...

コトバンク - 超能力:https://kotobank.jp/word/%E8%B6%85%E8%83%BD%E5...

国立国会図書館 - 千里眼実験を読む:https://www.ndl.go.jp/kaleido/entry/13/...

国立国会図書館 NDLサーチ - 透視と念写:https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R1000...

国立国会図書館 - 千里眼事件とその時代 参考文献:https://www.ndl.go.jp/kaleido/entry/13/...

《な~の》の心霊知識