真霊論-五島勉

五島勉

五島勉は、日本の作家・ルポライター・オカルトライターとして長く活躍した人物だ。1929年に北海道函館市で生まれ、2020年6月16日に91歳でその生涯を閉じた。

一般的には、1973年に刊行されて社会的な大旋風を巻き起こした『ノストラダムスの大予言』の著者として広く知られており、「サソリのベン」という異名も持つ。その著書は50冊をゆうに超え、オカルトという独特の世界を日本の大衆に届けつづけた稀有な書き手だった。

オカルトライター・五島勉が誕生するまで

五島勉(本名・後藤力)は1929年、函館の正教徒の家庭に生まれた。旧制函館中学校(現・北海道函館中部高等学校)から旧制第二高等学校へと進み、この時代に後の弁護士・遠藤誠と出会っている。

その後、東北大学法学部に進学した五島は、在学中にひょんなきっかけで文筆の世界へと足を踏み入れる。小遣い稼ぎのつもりで書いたポルノ小説を雑誌へ投稿したところ、思いのほか高く評価されてしまったのだ。人の縁とはおかしなもので、その偶然の成り行きが、後に日本中を震撼させる作家の誕生へと繋がっていた。

大学卒業後は出版業界に身を置き、『女性自身』や『微笑』といった女性週刊誌の編集に携わった。アンカーマンとして着実に実績を積んでいった五島だったが、30代半ばを過ぎると、大衆小説家への転身を真剣に考え始める。体力的な衰えから、外を駆け回るような取材が難しくなってきたためだ。

しかし、この夢は現実の壁に阻まれた。1963年から1964年にかけて刊行した『死のF104』と『BGスパイ』の二作は、残念ながらまったく世間の注目を集めることができなかった。そこで五島は、かねてから得意としていたオカルト記事の執筆へと舵を切っていく。一時期は「倉田英乃介」という別名でも活動しており、1972年には『近親相愛』、翌1973年には別筆名で『コイン利殖入門』も手がけている。こうして、やがて時代の寵児となるオカルトライターが静かに産声をあげた。

代表作『ノストラダムスの大予言』の熱狂的ブーム

五島の名を日本中に知らしめたのは、1973年に祥伝社から刊行された『ノストラダムスの大予言 ―迫りくる1999年7の月、人類滅亡の日』だった。

この本はまたたく間に250万部を超える大ベストセラーへと成長し、社会不安を煽るその内容は連日のようにマスメディアで取り上げられた。1974年には丹波哲郎主演で映画化までされ、邦画部門の興行収入第2位を記録している。ちなみに、この書籍の印税で五島は石神井に土地を購入し、自宅を建てたという。

もともとこの企画は、10人の予言者をあつかう内容として五島が持ち込んだものだった。それを祥伝社社長の伊賀弘三良がノストラダムス一人に絞るよう勧め、現在の形に落ち着いたといわれている。結果として、ルネサンス期フランスの予言者ミシェル・ノストラダムスは、一夜にして日本でも大きな脚光を浴びることになった。

ヒットの核心にあったのは、「1999年人類滅亡」という強烈なテーゼだ。五島がベースとしたのはノストラダムスが1555年に刊行した『ミシェル・ノストラダムス師の予言集』(Les Propheties de M. Michel Nostradamus)で、これは抽象的な散文詩によって予言が綴られたものだった。解釈の幅が無限に広がるこの書物の中から、五島は最もセンセーショナルな説を選んで世に提示したわけである。

当時の日本は、オイルショックや公害問題が相次ぎ、人々が漠然とした将来への不安を抱えていた時代だった。ローマクラブの『成長の限界』が世界的に衝撃を与え、第四次中東戦争が日常にも影を落としていた。そうした時代の空気の中で、終末論はまるで磁石のように人々の心を引き寄せた。

ブームは一過性のものでは終わらず、運命の1999年が近づくにつれて断続的に高まりを見せた。祥伝社からの『大予言』シリーズだけでも9冊の続編が刊行されており、以下のとおりだ。

  • 『ノストラダムスの大予言 2 ―1999年の破局を不可避にする大十字』(1979年)
  • 『ノストラダムスの大予言 3 ―1999年の破滅を決定する「最後の秘詩」』(1981年)
  • 『ノストラダムスの大予言 4 ―1999年、日本に課された"第四の選択"』(1982年)
  • 『ノストラダムスの大予言 5 ―ついに解けた1999年・人類滅亡の謎』(1986年)
  • 『ノストラダムスの大予言 スペシャル 日本編』(1988年)
  • 『ノストラダムスの大予言 中東編』(1990年)
  • 『ノストラダムスの大予言 残された希望編』(1992年)
  • 『ノストラダムスの大予言 地獄編』(1994年)
  • 『ノストラダムスの大予言 最終解答編』(1998年)

運命の時が目前に迫った1999年には、大手メディアも再び熱狂的にノストラダムスの予言を取り上げ、一部の人々はパニックに陥るほどだった。予言が社会全体をここまで揺さぶった例は、近代日本においてもほかに類を見ない。

一連のノストラダムス現象における五島への評価

しかし、『ノストラダムスの大予言』シリーズへの批判も少なくない。予言の信憑性それ自体はオカルトというジャンルの特性上それほど問われないとしても、「ノストラダムスの予言の解釈」と称するにはあまりにも原典から遠い記述が多すぎる、という点は繰り返し指摘されてきた。

実質的に、この著作はノストラダムスをモチーフにした五島のフィクションだったといえる。小説家を夢見ていた五島にとって、曖昧さに満ちたこのテーマはさぞ創作意欲をかき立てるものだったのだろう。原典のどこにも見当たらず、他の研究者たちが誰一人として採用していないような「解釈」がいくつも本の中に散りばめられており、後年にはフィクションが多数挿入されていた事実も判明して批判を浴びることになった。

こうした背景から、日本ではノストラダムスへの誤解が根深く広まり、専門的な研究者たちから繰り返し異議が唱えられてきた。最も有名な誤解のひとつが、予言集の中核をなす「百詩篇」を「諸世紀」と誤訳した点だ。「百詩篇」は内容の説明であると同時に予言集そのものの固有名詞としても使われているため、日本においてだけ長らく「ノストラダムスの予言集のタイトルは『諸世紀』である」と紹介される時代が続いてしまった。

また、社会学者や評論家の中には、その後の新興宗教ブーム、そしてオウム真理教による一連の凶悪事件の遠因として、五島の著作が若い世代に終末観を植え付けたことを挙げる見方もある。地下鉄サリン事件などのテロを引き起こしたオウム真理教は、五島が紹介した形でノストラダムスの予言を信じ込んでいたとも指摘されており、熱狂が臨界点を超えるとき、オカルトはもはや娯楽では済まされなくなる――その事実を、五島のブームは皮肉なほど鮮烈に示してしまった。

さらに、正解が存在しない「解釈」は際限なく量産できてしまうため、それをシリーズ化して何冊も刊行しつづけたことも、批判の的となってきた。

一方で、作家の酒見賢一のように、オカルトと理解したうえでフィクションとして接する分には『ノストラダムスの大予言』はきわめて質の高いエンターテインメントだと評価する声もある。五島とノストラダムスをめぐるネガティブな現象の多くは、五島自身の態度の問題というより、受け手側のリテラシーの問題だったとも言えるだろう。すべてを五島一人の責任に帰するのは、やはり的外れではないだろうか。

『ノストラダムスの大予言』以降の五島勉

時代の人となった五島は、長年の夢であった小説の執筆にも再挑戦している。『超兵器戦争』(1978年)などノストラダムスとは無縁の作品を発表したが、いずれも日の目を見ることはなく、1987年を最後に小説家の夢を断念した。

以後は再びオカルトの世界に専念し、ユダヤの陰謀論やハルマゲドン、ツングースカ大爆発、古代宇宙飛行士説、輪廻転生など、多岐にわたるテーマで次々と著書を世に送り出した。何年かごとにノストラダムスが話題になるたびに、五島の著作は必ず再注目を集めた。

しかし、懸念されていた1999年の7月がなにごともなく過ぎ去ると、その後は高齢になったこともあってか、五島のメディア露出は急激に減っていった。21世紀に入ってからの著書はわずかにとどまる。

それでも、80歳を超えてなおオカルトライターとして筆を走らせつづけた五島の姿勢は、一定の敬意をもって評価されるべきだろう。2020年6月16日、91歳でその生涯を閉じるまで、彼は自らの信じる道を歩み続けた。すべてを鵜吞みにせず、良質な娯楽として楽しむ心の余裕があるなら、五島勉という書き手が提供しつづけた世界は、今も読む価値を失っていない。

参考ホームページ・文献等

Wikipedia - 五島勉:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%94%E5%B3%B6%E5%8B%89

Wikipedia - ノストラダムスの大予言:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8E...

明治大学 意識情報学研究所 - ノストラダムス現象の考察:http://www.kisc.meiji.ac.jp/~shigemi/lab...

J-STAGE - 予言と社会心理的反応に関する研究:https://www.jstage.jst.go.jp/article/js...

国立国会図書館サーチ - 五島勉 著作アーカイブ:https://ndlsearch.ndl.go.jp/search?keywo...

CiNii Research - 日本のオカルト・ブームと社会背景:https://ci.nii.ac.jp/search?q=%E3%82%AA...

NHKアーカイブス - 1999年と予言の記録:https://www2.nhk.or.jp/archives/movies/?i...

毎日新聞 - 五島勉氏と予言の時代:https://mainichi.jp/articles/20200721/k...

疑似科学を科学的に考える - ノストラダムスの検証:https://gijika.com/test/nostradamus.html

東京大学リポジトリ - 近代日本の霊性とオカルト:https://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/r...

Wikipedia - オカルトブーム:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA...

京都大学リポジトリ - 予言と終末論の宗教社会学:https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/d...

國學院大學 - 日本における終末思想の変遷:https://www2.kokugakuin.ac.jp/ijcc/wp/cp...

南山宗教文化研究所 - 現代の予言と救済の研究:https://nirc.nanzan-u.ac.jp/journal/5/a...

J-STAGE - 1970年代の精神世界の分析:https://www.jstage.jst.go.jp/article/shu...

国立歴史民俗博物館 - 民間信仰としての予言と伝承:https://www.rekihaku.ac.jp/outline/publi...

Researchmap - 石川 幹人教授(超心理学・意識研究):https://researchmap.jp/shigemi

日本宗教学会 - 宗教学研究アーカイブ:http://j-religion.jp/

日本心理学会 - 予言の受容と不安の心理学:https://psych.or.jp/publication/world081/...

Wikipedia - 1999年7の月:https://ja.wikipedia.org/wiki/1999%E5%B9...

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