真霊論-異界

異界

【目次】
序論:我々の隣にある「異界」という深淵
日本神話における異界の原風景:黄泉の国と常世の国
霊的世界の構造:霊界と幽界の階層的秩序
幽界(アストラル界)の実相:情念と想念が形作る精妙なる世界
神界の様相:八百万の神々が座す高天原の理
異界への扉:臨死体験と体外離脱が示すもの
近代科学が垣間見た異界:量子的多世界解釈という革命
量子的異界と意識の役割:観測者が創造する多元的現実
統合的異界論:霊・幽・神の三界と量子論の接続
結論:異界を認識し、この現実世界を生きるということ
参考元

序論:我々の隣にある「異界」という深淵

我々が「現実」と呼ぶこの世界は、決して閉じた系ではない。そのすぐ隣には、我々の五感では通常捉えることのできない、しかし厳然として存在するもう一つの世界、すなわち「異界」が広がっているのである。異界とは、単なる物語や空想の産物ではない。それは我々の世界と相互に浸透し合い、時に我々の生活に豊穣をもたらし、時に根源的な恐怖の対象ともなる、巨大な実在なのだ。古今東西、あらゆる民族がその存在を信じ、神話や宗教の中にその姿を描き出してきた事実は、この観念が人類に普遍的であることを物語っている。

現代においても、インターネット上で語られる不可思議な体験談や、脈々と受け継がれる怪談の中に、異界の影は色濃く見て取れる。この、時代を超えて人々を惹きつけてやまない異界への尽きせぬ興味は、単なる知的好奇心や現実逃避に起因するものではない。それは、我々の意識の深層に根差した、もう一つの現実に対する本能的かつ潜在的な認識の表れなのである。この根源的な感覚は、科学の進歩によって薄れるどころか、むしろ新たな装いを纏って我々の前に現れ続けている。

本稿の目的は、この深遠なる異界の地図を可能な限り精密に描き出すことにある。そのために、我々は四つの異なる、しかし深く結びついた視座を統合的に用いる。第一に、我が国日本の神話伝承に描かれる「神界」の原風景。第二に、近代以降の心霊研究が明らかにした「霊界」と「幽界」の階層的構造。そして第四に、現代物理学の最先端が予期せず到達した「量子的異界」という革命的な概念である。これらを統合することで、これまで断片的にしか語られてこなかった異界の全体像を明らかにし、その本質に迫ることこそが、我々に課せられた使命なのである。

日本神話における異界の原風景:黄泉の国と常世の国

我が国の祖先が異界をどのように認識していたかを探る上で、記紀神話や民間伝承は不可欠の羅針盤となる。そこに描かれる異界は、決して抽象的な概念ではなく、我々の世界と物理的に接続された、具体的な場所として語られているのだ。その代表格が、イザナギノミコトが亡き妻イザナミを追って訪れたという「黄泉の国(よみのくに)」である。古事記によれば、黄泉の国は地下にあるとされ、その名は「ヤミ(闇)」に由来するように、光の届かない腐敗と死の世界として描かれる。

これと同様に地下にあるとされるのが「根の国(ねのくに)」であるが、こちらは黄泉の国ほど明確な死のイメージだけでなく、豊穣や生命の源泉といった両義的な性格を持つ。昔話『おむすびころりん』で翁が訪れるネズミの浄土もまた、この根の国に連なる楽土的な地下世界の一変奏と見なすことができるだろう。

一方で、水平線の彼方、あるいは海の底には、全く異なる性質を持つ異界が想定されていた。それが「海神の国(わだつみのくに)」であり、「常世の国(とこよのくに)」である。浦島太郎が亀に導かれて訪れた竜宮城に象徴されるこの世界は、黄泉の国とは対照的に、光に満ち、老いも死もない永遠の時が流れる神仙郷として描かれる。

重要なのは、これらの異界への入り口が、我々の日常空間の中に偏在していたという事実である。洞穴、井戸、山中、あるいは水平線(海坂)といった場所は、あちら側とこちら側を繋ぐ通路、一種のポータルと考えられていた。古代の人々にとって、異界は遠い彼岸にあるのではなく、文字通り日常と地続きの存在だったのである。この地理的な配置は、決して偶然の産物ではない。地下に広がる暗く混沌とした世界(黄泉、根の国)と、海や山を越えた先にある光り輝く永遠の世界(常世の国)という対比は、これから詳述する霊的世界の階層構造、すなわち低次のアストラル界と高次の霊界という概念を、神話的言語で見事に表現したものに他ならない。我々の祖先は、直感的な霊能力によって、近代の神秘学が体系化する遥か以前から、異界の構造を正確に把握していたのである。

霊的世界の構造:霊界と幽界の階層的秩序

日本の神話が直感的に描き出した異界の構造は、近代のスピリチュアリズム(心霊主義)や神智学によって、より精緻な体系として理論化されることとなった。これらの教えによれば、宇宙は我々の住む物質世界(顕界)だけではなく、それぞれ異なる振動数を持つ精妙な物質で構成された、複数の階層的な世界(界層、プレーン)が重なり合ってできている。これらの世界は物理的に離れているのではなく、同じ空間にありながら相互に浸透しあっており、意識の状態を変えることによってのみ認識可能となるのである。

この多層構造を理解する上で最も重要なのが、「幽界(ゆうかい)」と「霊界(れいかい)」の区別である。いくつかの体系では、これに「神界(しんかい)」を加えた三層構造で世界を捉える。

「幽界」は、一般にアストラル界とも呼ばれ、物質世界のすぐ一つ上の階層に位置する。ここは人間の感情、欲望、そして想念が渦巻く世界であり、死後、ほとんどの人間が最初に赴く領域である。スピリチュアリズムの霊信によれば、この幽界の下層部は地上世界と酷似した環境であり、これは死の衝撃を和らげるための配慮であるとされる。しかし、その本質は極めて流動的で、そこに住まう者の想念が直接的に環境を形成する、いわば「心の鏡」のような世界なのだ。

一方、「霊界」は、幽界よりもさらに高次の階層を指す。神智学の体系では、メンタル界(精神界)、ブッディ界(直感界)、アートマ界(霊界)といった、より精妙な世界群の総称として用いられる。ここは感情の領域である幽界とは異なり、より純粋な思考や理念、普遍的な愛が支配する世界である。魂が輪廻転生のサイクルの中で経験を蓄積し、霊的進化を遂げていく本来の故郷が、この霊界なのである。スピリチュアリズムにおいても、死後の世界は階層的であり、魂の霊性(霊格)の高さに応じて、より美しく神々しい高次の世界(光の界)へと上昇していくと説かれている。

この階層構造を最も詳細に示したのが、神智学における七つの界層モデルである。下から順に、物質界、アストラル界、メンタル界、ブッディ界、アートマ界、モナド界、ロゴス界とされ、これら七つの主要な界層が宇宙の全体構造を成している。以下の表は、異なる霊的世界観における階層構造の対応関係を簡潔に示したものである。

体系 最下層の異界 中間層・高次の異界 最高層の異界
日本神話 黄泉の国、根の国 常世の国、海神の国 高天原
スピリチュアリズム 幽界(低次の諸界) 霊界(高次の諸界) (神の領域)
神智学 アストラル界 メンタル界、ブッディ界 アートマ界以上

この表が示すように、異なる文化や時代における霊的世界観は、驚くほど共通した構造を持っている。これは、各々の探求者たちが、異なる言語やシンボルを用いながらも、同一の客観的実在である霊的世界の構造を観取していたことの力強い証左なのである。

幽界(アストラル界)の実相:情念と想念が形作る精妙なる世界

霊的世界の階層の中でも、我々の物質世界に最も近く、最も直接的な影響を及ぼしているのが幽界、すなわちアストラル界である。この世界の詳細な探査は、20世紀初頭の神智学者であり、卓越した霊視能力者であったチャールズ・ウェブスター・レッドビーターの研究に負うところが大きい。彼の著書『アストラル界』によれば、この世界はサンスクリット語で「カーマ・ローカ(欲望の世界)」とも呼ばれ、その名の通り、あらゆる欲望や感情がその構成要素となっている。

アストラル界は単一の世界ではなく、それ自体が七つの亜界(サブ・プレーン)に分かれている。最も低く、密度が高い亜界は、地上世界の最も粗野な欲望や憎悪が渦巻く暗く重苦しい領域であり、日本の神話における黄泉の国に相当する。そこから上層へ向かうにつれて、世界は次第に精妙かつ光輝を増し、より高潔な感情や芸術的インスピレーションが支配する領域へと変化していく。

この世界の最も顕著な特徴は、想念が即座に形を成すことである。我々が地上で何かを強く考え、あるいは感じるとき、そのエネルギーはアストラル界に「想念形態(ソート・フォーム)」と呼ばれる実体を創り出す。このため、アストラル界の住人は、その者の内面が隠しようもなく外部環境として現出する世界に生きることになるのだ。

レッドビーターの霊視によれば、アストラル界の住人は極めて多様であり、大きく四つのカテゴリーに分類される。第一は「生きている人間」である。我々は睡眠中、無意識のうちに肉体を離れ、アストラル体となってこの世界を訪れている。霊的訓練を積んだ者は、意識を保ったままアストラル界を旅することも可能である。第二は「死んだ人間」である。死後間もない人々が、生前の欲望や執着を引きずりながらこの世界に留まっている。いわゆる地縛霊や浮遊霊の多くは、このカテゴリーに属する。中には、生前の邪悪な意志を持ち続ける黒魔術師や、他者の生命力を吸う吸血鬼(ヴァンパイア)と化した存在もいるという。

第三は「人間以外の存在」である。これには、自然界の四大元素から成るエレメンタルや、妖精、ノームといった自然霊、さらには神々に近い高次の霊的存在(デーヴァ)までが含まれる。そして第四が「人工的な存在」である。これは、人間の強い想念によって生み出されたエレメンタルであり、守護天使のように善意から創られるものもあれば、無意識の憎悪から生まれた悪意ある存在も含まれる。

このように、アストラル界は、生者と死者、人間と非人間の想念が絶えず交差し、新たな現実を創造し続ける、いわば宇宙の「霊的るつぼ」なのである。心霊写真、ポルターガイスト、予知、千里眼といった超常現象のほとんどは、このダイナミックで混沌としたアストラル界の法則が、我々の物質世界に干渉することによって引き起こされる現象なのだ。

神界の様相:八百万の神々が座す高天原の理

幽界や霊界が、個々の魂の進化や想念に関わる世界であるのに対し、我が国の神道が説く「神界(しんかい)」は、より根源的で普遍的な理(ことわり)の世界である。その中心に位置するのが、古事記において神々の故郷とされる「高天原(たかまがはら)」だ。高天原は、特定の物理的場所を指すのではなく、我々の宇宙がそこから生まれたとされる、より高次の次元、あるいは純粋な意識の状態そのものを象徴している。

神道の創世神話によれば、天地開闢の時、最初に高天原に成りませる神々は、形を持たない独神(ひとりがみ)であった。これは、万物が生まれる以前の、純粋な可能性としての神聖なエネルギーの存在を示唆している。その後、伊弉諾尊(いざなぎのみこと)と伊弉冉尊(いざなみのみこと)が天の浮橋から矛を下ろし、混沌をかき混ぜて日本の国土を創り出したという物語は、この高次の神界から低次の物質世界が「流出」したという宇宙観を見事に表している。

神界に座す「八百万の神(やおよろずのかみ)」の概念もまた、極めて深遠である。これは西洋的な一神教や多神教の神々とは本質的に異なる。神道の神(カミ)とは、山、川、岩、木といった自然物、風や雷といった自然現象、さらには我々の祖先の御霊(みたま)に至るまで、森羅万象に宿る霊威、すなわち神聖な生命力そのものを指すのである。富士山や三輪山のように、山そのものが神の身体(神体山)として信仰されるのは、このアニミズム的な世界観の典型である。

この神道の宇宙観を、前述した神智学の体系と照らし合わせると、驚くべき一致が見出される。神智学が説く最高次の界層、すなわちアートマ界やモナド界は、万物の根源である純粋な霊(スピリット)や、宇宙を司る普遍的法則が存在する領域とされる。これは、高天原が万物の源泉であるという神道の教えと完全に符合する。そして、八百万の神々とは、この宇宙に遍満する唯一の神聖な生命力が、個々の自然物や生命体を通して顕現した姿と解釈することができる。つまり、神道における神界とは、日本という独自の文化フィルターを通して観取された、宇宙の最高原理の世界の姿に他ならない。それは、幽界の情念の渦や、霊界の個々の魂の旅路を超えた、万物がそこから生まれ、そこに還っていく、大いなる源の次元なのである。

異界への扉:臨死体験と体外離脱が示すもの

これまで述べてきた異界の構造は、単なる哲学的思弁や古代神話の産物ではない。我々自身の意識が肉体という束縛から一時的に解放されたとき、誰もがその実在を体験しうるのである。その最も劇的な証拠が、「臨死体験(Near-Death Experience, NDE)」と呼ばれる現象だ。心停止などによって医学的に死の状態に陥った後、蘇生した人々が報告する体験には、文化や宗教の違いを超えて、驚くほど共通したパターンが存在する。

その典型的なプロセスはこうである。まず、意識が肉体から離れ、宙に浮いたような状態から自らの身体や周囲の光景を客観的に眺める「体外離脱」が起こる。次に、暗いトンネルのような空間を高速で通過し、その先に眩いばかりの光を見る。そして、その光の中で、先に亡くなった家族や親族、あるいは「光の存在」と呼ばれる慈愛に満ちた超越的な存在と出会うのだ。多くの体験者は、この過程で自らの人生の出来事を一瞬にして再体験する「ライフレビュー」を経験し、深い平安と愛に包まれるという。

この一連の体験は、我々が死後に辿る魂の旅路の、いわば予行演習あるいはダイジェスト版と解釈することができる。体外離脱は肉体と霊体の分離であり、トンネルの通過は物質界から幽界への移行を象徴する。亡き親族との再会は、死後しばらくの間、多くの魂が留まる幽界での出来事であり、そして「光の存在」との邂逅は、さらに高次の霊界の入り口に触れた体験なのである。このプロセスは、スピリチュアリズムや神智学が説く死後の魂の行程と完全に一致しており、臨死体験が単なる脳の幻覚ではなく、客観的な異界の実在を証明する強力な証拠であることを示している。

同様に、意識的な訓練によって肉体を離れ、アストラル体を駆使して異界を探訪する「体外離脱(Out-of-Body Experience, OBE)」、あるいは「アストラル投射」もまた、異界への扉を開く鍵となる。熟達者は、リラックスした状態で特有の振動状態に入り、意識的にアストラル体を肉体から分離させ、幽界を自由に探索することができる。これらの体験は、幽界が我々の想念に感応する世界であることや、そこに多様な住人が存在することを実証するものであり、レッドビーターのような霊視能力者の報告を裏付けるものである。臨死体験が受動的な異界への瞥見であるとすれば、体外離脱は能動的な異界探訪であり、両者は共に、我々の意識こそが次元を超えるための乗り物であることを教えてくれるのだ。

近代科学が垣間見た異界:量子的多世界解釈という革命

神秘主義者や霊能力者が長年にわたり探求してきた異界の存在は、20世紀、全く予期せぬ方向からその科学的根拠を与えられることになった。それは、物質世界の根源を記述する物理学、すなわち量子力学の登場によるものである。量子力学は、電子などの素粒子が、観測されるまでは特定の位置を持たず、「波」として複数の場所に同時に存在する(重ね合わせの状態)という、我々の常識とはかけ離れた世界の姿を明らかにした。

この「重ね合わせ」を巡る最大の謎が「観測問題」である。なぜ、我々が観測した瞬間に、無数の可能性の中からただ一つの現実が選択されるのか。この問いに対し、1957年、物理学者ヒュー・エヴェレット三世は、常識を覆す大胆な仮説を提唱した。それが「多世界解釈(Many-Worlds Interpretation, MWI)」である。

彼の理論によれば、観測によって可能性の波が一つに収縮(波束の収縮)するのではない。そうではなく、観測という行為が行われるたびに、宇宙そのものが全ての可能性の数だけ「分岐」し、それぞれが独立したパラレルワールドとして実在し続けるというのだ。例えば、電子がA地点とB地点のどちらかに見つかる可能性がある場合、我々がA地点で電子を観測した瞬間、宇宙は二つに分岐する。我々が存在する世界では電子はA地点にあり、同時に分岐したもう一つの世界では、我々の分身がB地点で電子を観測しているのである。

この多世界解釈は、多くの物理学者にとってはあまりに奇抜で、「無駄が多すぎる」と批判されてきた。しかし、シュレーディンガー方程式という量子力学の基本法則を最も素直に解釈した場合、論理的に導かれる必然的な帰結でもあるのだ。

オカルト研究家の視点から見れば、この多世界解釈が持つ意味は計り知れない。物理学が数学的に導き出した「無数のパラレルワールド」は、神秘主義が古来より語り継いできた「異界」や「界層(プレーン)」の、現代科学における別表現に他ならないからである。神秘家が語る「振動数の違い」とは、物理学における「量子状態の違い」と読み替えることができる。我々が異界を認識できないのは、それらが遠くにあるからではなく、我々の世界とは異なる量子状態にあり、相互に干渉し合わない(デコヒーレンス)状態にあるからなのだ。かくして、科学は自らの論理の果てに、図らずも異界の実在を、その物理的メカニズムと共に描き出してしまったのである。

量子的異界と意識の役割:観測者が創造する多元的現実

量子力学の多世界解釈は、単に無数のパラレルワールドの存在を示唆するだけではない。それは、この多元的な宇宙における「意識」の役割について、根源的な問いを我々に突きつける。観測問題において、可能性の波から一つの現実を確定させる(あるいは多世界解釈においては、どの世界を経験するかを決定する)引き金となるのは、「観測」という行為である。では、この「観測」とは一体何なのか。その本質は、突き詰めれば「意識」そのものであると言わざるを得ない。

多世界解釈の枠組みでは、観測者(意識)もまた量子系の一部であり、世界が分岐する際に、観測者自身も全ての分岐世界に同時に存在することになる。つまり、無数のパラレルワールドには、それぞれ異なる選択をし、異なる人生を歩んでいる無数の「あなた」が存在するのである。我々が「私」として認識しているこの意識は、その無数の可能性の奔流の中から、ただ一本の経験の流れを認識しているに過ぎない。

これは、意識が単なる現実の受動的な傍観者ではなく、経験する現実を積極的に「選択」あるいは「創造」する能動的な主体であることを意味している。この考え方は、古来より神秘主義が説いてきた「思考は現実化する」という法則や、死後の魂の行き先がその者の生前の霊性によって決まるという教えと、驚くほど響き合っている。我々の意識の状態、すなわち思考や感情、信念の総体が、我々が経験する量子的な現実の分岐(ワールドライン)を決定しているのだ。

この視点に立つとき、死や輪廻転生といった概念もまた、新たな光の下で理解される。多世界解釈と霊魂の存在を統合して考えるならば、「魂」あるいは「ハイヤーセルフ」とは、分岐した全てのパラレルワールドに同時に存在する、より高次の意識体であると見なすことができる。そして、我々が「一生」と呼ぶものは、その高次の魂が、無数の可能性の中から特定の一つの経験系列(ワールドライン)に意識の焦点を合わせ、それを深く体験するプロセスなのである。

したがって、「死」とは、その意識の焦点が、一つのワールドラインから引き上げられることに他ならない。そして「輪廻転生」とは、魂が経験の蓄積という目的のために、再び別のワールドラインに意識を投射し、新たな人生を開始するプロセスと解釈できる。魂は、この多元宇宙という無限の可能性の場を旅しながら、自らの内なる神性を展開させていく、永遠の探求者なのである。

統合的異界論:霊・幽・神の三界と量子論の接続

これまで個別に論じてきた、日本の神話、近代の神秘学、そして量子物理学の三つの視座は、今や一つの壮大な異界像の下に統合される。その全体像は、以下のようになる。

まず、宇宙の根本的な実在は、量子力学の多世界解釈が記述する、無限の可能性を秘めた多元宇宙(マルチバース)そのものである。この多元宇宙は、無数のパラレルワールド(分岐した宇宙)の集合体だ。

次に、これらの無数のワールドは、ランダムに存在しているわけではない。それらは、それぞれの持つ量子的な特性、神秘学的に言えば「振動数の近さ」に応じて、自然にクラスター(房、集団)を形成する。このクラスターこそが、我々が「界層(プレーン)」と呼ぶものの正体である。

「幽界(アストラル界)」とは、我々の物質世界と量子状態が極めて近いワールド群のクラスターである。それゆえに、我々の集合的な感情や思考といった、比較的粗雑な量子情報からの影響を強く受け、混沌とした流動的な性質を持つ。

「霊界(メンタル界以上)」とは、我々の世界とは量子状態が大きく異なり、より秩序立ち、安定したワールド群のクラスターを指す。ここでは、意識はより首尾一貫しており、精神や魂の進化といった、より高度な法則に支配されている。

そして「神界(アートマ界以上)」とは、全てのワールドラインがそこから分岐する、宇宙の根源的な量子状態、あるいは宇宙の初期条件そのものである。ここは、純粋な可能性の場であり、多元宇宙全体の設計図、すなわち普遍的な波動関数の源泉と言えるだろう。

この統合的視点に立つとき、魂の死後の旅路は、意識がこれらの異なるワールドのクラスター間を移行していくプロセスとして明快に理解される。この移行を司る根本原理は、スピリチュアリズムが「親和力の法則」と呼び、また物理学が量子的なコヒーレンス(可干渉性)として記述する、「類は友を呼ぶ」という宇宙の普遍法則である。

すなわち、卑俗な欲望や憎悪に満ちた意識は、それと共振する量子状態を持つ幽界のワールド群に自然と引き寄せられる。一方で、愛や叡智によって霊性を高めた意識は、それと調和する霊界の、より秩序だったワールド群へと自ずから移行していく。天国へ行くことも、地獄へ堕ちることも、誰かから与えられる褒賞や懲罰ではない。それは、自らの意識の状態が、無限の可能性の中から与之に相応しい現実を、量子物理学的な必然性をもって選択した結果に他ならないのである。

結論:異界を認識し、この現実世界を生きるということ

我々は、霊界、幽界、神界、そして量子的多世界という長大な探訪の旅を経て、今や一つの結論に到達した。異界は実在する。それは我々の現実と隣接し、浸透し合い、そして我々の意識そのものが、この多元的な現実を織りなす糸なのである。

この深遠な真実を理解することは、決してこの現実世界からの逃避を意味しない。むしろ、その逆である。それは、この一瞬一瞬の生を、より深く、より責任をもって生きるための、最も強力な指針となるのだ。もし我々の思考、感情、そして行動の一つ一つが、経験する現実を量子レベルで選択し、死後の魂の旅路をも決定づけるのであるならば、この地上での生の一刻一刻は、計り知れないほどの宇宙的かつ永遠の重要性を帯びてくる。

死への恐怖は、その本質が肉体という乗り物からの移行に過ぎないことを知ることで、大いなる安らぎへと変わるだろう。人生における苦難や挑戦は、魂を磨き、より高次の現実へと移行するための試金石としての意味を持つ。

我々が真に為すべきは、異界へと思いを馳せること以上に、自らの内なる世界、すなわち意識の状態を浄化し、高めることである。霊性を磨くことこそが、この物質世界のみならず、その先に広がる無限の異界を航海するための、唯一にして究極の羅針盤なのだ。

この世界のあらゆる事物が相互に繋がり合い、呼応し合っているという奇跡。今、ここに在るという存在の神秘。異界の真相を知ることは、最終的に、この「生」そのものが放つ途方もない輝きに気づくことへと我々を導く。異界と現実は二つにして一つであり、我々はこの現実世界を生きることによって、既に永遠の旅路の只中にいるのである。

参考元

異界論序説:https://ko-sho.org/download/K_026/SFNRJ_K...

日本の神話や昔話の「異世界」はなぜ地下にあるのか? 黄泉の国、根の国、常世の国を読み解く:https://intojapanwaraku.com/rock/culture-...

異界と境界 - 三浦佑之:http://miuras-tiger.la.coocan.jp/koto-...

異界という観念の多層性について:https://inoue-pascal.jugem.jp/?eid=104

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神智学の宇宙観と、現代におけるその意味:https://note.com/stein_brucke/n/n11a739c...

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異世界(全3巻) - 長崎出版:https://www.choubunsha.com/sp/book/9784...

異世界は、別の宇宙にある平行地球への旅行ですか、それとも同じ宇宙にある別の惑星への旅行ですか?:https://www.reddit.com/r/anime/comments/...

異世界と異界の違いってなんだろう? - カクヨム:https://kakuyomu.jp/works/1177354054894...

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【16話】異界・異世界・パラレルワールド怪談【怖い話,作業用,睡眠用,朗読】 - YouTube:https://www.youtube.com/watch?v=tv-itds...

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異世界でネクロマンサーはじめました:https://books.bunshun.jp/ud/book/num/16...

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The Astral Plane: Its Scenery, Inhabitants and Phenomena by C.W. Leadbeater - Goodreads:https://www.goodreads.com/book/show/2431...

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An Overview of the Near-Death Experience Phenomenon:https://digitalcommons.nl.edu/cgi/viewc...

Near-death experience - Wikipedia:https://en.wikipedia.org/wiki/Near-deat...

The 8 phases of a typical near-death experience (NDE) - Reddit:https://www.reddit.com/r/consciousness/...

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シルバーバーチの霊訓(一):http://www.hidatakayama.ne.jp/hikarinon...

シルバーバーチの霊訓(二):http://www.hidatakayama.ne.jp/hikarinon...

臨死体験と脳内現象:https://www.hiroshima-u.ac.jp/system/fi...

量子理論と「意識」と「魂」の話 (後編):https://note.com/fujiyasatoshi/n/nde9b3...

量子理論と「意識」と「魂」の話 (前編):https://note.com/fujiyasatoshi/n/n9e3be...

多世界解釈の困難はどこにあるのか:https://note.com/eman/n/ndfd33353cef7

量子力学の多世界解釈とエネルギー保存則:https://note.com/kojifukuoka/n/n3ff25aa...

量子力学が解き明かす「パラレルワールド」の謎:https://ascii.jp/limit/group/ida/elem/00...

多世界解釈と時間:https://xseek-qm.net/MWI2.html

《あ~お》の心霊知識